第三話 さ と し

介護のコラム

あれから何年の月日が経つのだろうか、

ベッドの天井を見つめながら、僕は昔の事を思い出している。

未だに僕はベッドから動けずにいる。身体が重く動けない。

僕は3年前、ある施設にて介護職員として働いていた。そこは、重度の寝たきりの利用者が多い施設だった。経管栄養などを使用しており、身体が動かせない、要介護度が重たい方ばかりの施設だった。

毎日、業務的にこなす、オムツ介助や入浴介護に飽き飽きしていた。

毎日変わらず、業務をこなす日々。利用者の殆どは喋りかけても会話も出来ない方ばかりで、身体的にも介助が辛かった。

あの時の僕はまだ、高校卒業してすぐに決めた就職先で、社会の厳しいさにも慣れていなかった。もちろん、介護知識や技術もないまま、勤めていたので、毎日の業務に耐えられない気持ちが募っていた。

だが、辞めるわけにはいかない。僕自身、勉強などをしてこなかった人生だった。

今更、介護を辞めて他で雇ってもらえるなど、甘い考えは持ち合わせていない。

就職先が此処しかなかった。もっと学生時代に勉強をして真面目に生活していれば良かったと後悔ばかりが、あの頃は常に考えていた。

「智司くん。オムツしっかりと当てないと漏れてたじゃない。ちゃんとしてくれないと本当に困るわ」僕の事を何かにつけて注意してくる。主任が居た。

「すみません。気をつけます」

「すみません、じゃないのよ!Mさん漏れていたから、綺麗にオムツ当て直しておいて」命令口調で僕に告げて去っていく。

溜息まじりながらも、Mさんの排泄処理を行う。Mさんは、寝たきりで、喋る事もできない。

それに、拘縮も酷く、身体が硬いのでオムツ交換がやっとだった。

Mさんは僕の時だけ、目を見開き、身体を硬直させる。目も見えていないらしいが、僕を見つめている様で、気味が悪かった。

そのせいで、オムツをしっかりと当てる事ができない。他の職員いわく、身体の拘縮は少しあるらしいが、そこまで、酷くないらしい。

僕はMさんの介助が本当に嫌だった…

なので、いつも乱雑な介助になっていたのだと

今思えば感じられる。だが、痛みも声もださないMさんは、なされるがままだった。

そんな日々を過ごしていて、暫くたった頃、Mさんが亡くなってしまった。

Mさんには、一人息子だけが居る。入所されていた時は一切面会に来なかったが、荷物の引き取りだけは、施設に来たのだった。

そういえば、息子さんの下の名前も智司という事をMさんの資料を片付けている時に知った。僕と同じ名前だった。それ以外は特に似てもいないのだが、何故か親近感が湧いていると感じた。

Mさんが、亡くなってからだろうか、僕の身体に違和感が感じられる様になった。

初めは、足が重く、時折り痺れを感じた。

そして腰が重たくなり、身体が常に、気だるい。

それは、日に日に強く感じられる様になった。

腰のヘルニアという、病にかかったのではと思い、病院で受診を受けるも、目立った原因は見つけられなかった。

日に日に弱っていく、身体を感じる。

僕は遂にベッドから起き上がる事が、出来なくなった。

そして、3年の月日が経っていた。

今では声を出す事も難しくなった。

病院には何度も通ったが、原因不明との事だった。

「智司、、オムツの時間だよ。」お母さんが僕の介助をしてくれている。

お母さんは疲れのせいか、見るたびにやつれている。最近では、オムツも1日に一回変えて貰えれば良い方だった。

身体中が、痒くて仕方がないが、もう話す事もできない。

また、お母さんは、殴るようになった。

僕はお母さんが、来るのが怖くて仕方がなかった。

お母さんの顔を見る度に、身体が強張り

緊張して、固まっていく。

痛い、痛い‥

乱雑にオムツを変えられ、叩かれる毎日。

いつになったら、終わりが来るのだろう。

自分がこの様な身体になってようやく

利用者の気持ちを理解できた、、

そして、僕の身体の上に、Mさんが目を見開きながら覆いかぶさっている。

口をパクパクとさせている。声は聞こえないが、

僕には何を言っているのか、理解できた。

「さ と し」

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